3回に渡ってご案内してきた小規模宅地等の特例は大変に有効なものですが、要件を満たさない場合はこれを使えません。代表的なパターンは以下のようなものです。

  • 親の自宅を相続する別居の子は既に持家を所有している
  • 親と子は二世帯住宅に住んでいるが区分所有登記されている
  • 要介護と認定されていない親が終身利用権付老人ホームに入居した
  • 要介護と認定されている親が終身利用権付老人ホームに入居し自宅を賃貸に出した

このような場合は基本的に特例を使うことが出来ませんので注意が必要です。

上記のとおり「親の自宅を相続する別居の子は既に持家を所有している」パターンでは特例を使えません。現代では核家族化が進み、親と同居せず既に自己の持家を所有している場合も多く、このような方は適用対象外となってしまいます。
このような場合でも、通称「家なき子特例」というものがあり、対象は居住用宅地のみですが小規模宅地等の特例が適用出来ます。
家なき子とは持家を持たず借家に住んでいる人のことですが、厳密には「相続開始前3年以内に、国内にある自己又は自己の配偶者の持家でなく借家住まい」となりますので、既に持家がある方でも、持家を賃貸に出して(又は売却して)、自身は借家住まいし、その後3年間過ぎれば特例を使えることになります。
家なき子特例では、「被相続人が一人暮らしで配偶者や同居親族がいない」ことが必要ですから、親に配偶者や同居親族がなければ検討の余地はあるかも知れません。

相続対策はこのようなものもあるのですが、実際にどうすることがベターな対応なのかは個々の状況により大きく変わりますので、是非とも税理士にご相談されることをお勧めいたします。

最後に、小規模宅地等の特例を使う際の注意点をひとつ。
特例を適用すると控除の枠内に収まり、結果的に相続税の支払いをしなくて済んだという方も多いと思います。
相続税を支払わないのだから「税務署への相続税申告は不要」と考えがちですが、小規模宅地等の特例は、相続税申告書の提出が適用要件となっていますので、相続税申告をしないと後でペナルティが課せられる可能性があります。ゼロ円の申告も、通常の相続税申告と同様、相続発生(故人の死亡)から10ヶ月以内に税務署に申告しなければなりませんのでご注意下さい。